『現代の北斎ロッキー田中のときめきの富士』も、早10回目。
今回ご紹介するのは、天を駈ける雲『天翔雲』という、「ときめきの富士」第60作にあたり、ロッキーさんにとっても、思い入れがある作品とのこと。
どんな思いがそこにあるのかについてうかがいました。

ちなみに、梅雨時のロッキーさんは、富士山が撮影できる『梅雨の晴れ間』を東京で探るという作業をしながら、タイミングを計って出かけるとのこと。
気象予報士さながらの技術です。

そんな技を使って撮影された『天翔雲』は、2008年6月12日に出来上がった作品。
今から13年前ということですが、いまだにこの作品を超えるシーンに出会っていないそうです。

「静岡県の清水区吉原という場所で、この雲海の下はすべてお茶畑なんです。前の日に雨が降って湿気がいっぱい溜まっているから明日は晴れそうだと思い、このわずかな切れ目にここに行こうと思ったんです」と、ロッキーさん。

長年ずっと富士山を取り巻く環境をリサーチされて、その記録が全部ご自身の中にあるからこそできる技といえます。

「99%、当時の私自身もそうだったんですが、ここを撮るんです」と、ロッキーさんがおっしゃるフレームは、実際に完成した作品の4分の1程度の大きさで、富士山を中心とした構図です。

「この雲海と、ここまでと富士山と。ここぐらいまでしか普通の人は写真にしないんです。この写真ができるまでに、私も、この角度を切り取って劇的なシーンを狙っていまして……」とおっしゃりながら、もう一枚の作品を見せてくださいました。
それがこちら。

『雲の浮島』という作品ですが、確かに『天翔雲』から切り出された作品といった印象。

そして、ロッキーさんは続けてお話してくださいます。
「魚眼レンズというのは丸いものですが、その魚眼効果ではなくて、フラットに見えるのがあるんです。そのレンズをカメラにセットしますと、頭の真上からドンと頭上まっすぐまで、左右を伸ばした両腕から延長してまっすぐまで、つまり、お空の半分を映すことができるんです。たまたまこのレンズをを持っていて、よし、これは空の全部を受け止めようと撮ってみたらすごいことになりました。その空全体の半分を映し撮った時に閃いたんです。これは全てが一つだ、一つが全てだということを表しているようだと。今までこの辺(富士山をアップにした構図)で切り取っていた写真も、視点を変えてもっと大きくいこう、新しい時代の扉が開くんだよと。そしてココ(画面中央の雲の切れ目)に次の次元の入り口みたいな窓が開いたんです」

ロッキーさんがこの日この現場に到着したときには、当然、雲の形は写真の通りではありません。
レンズを選んだり構図を決めている間にも、ドンドン変化していくわけです。
しかも、結構風が吹いていたからこそ、雲の動きがあってこのダイナミックさが表現されるわけですから、いつシャッターを切るのかは、まさにインスピレーション勝負。

「面白いことにたくさんのアマチュアカメラマンの人もいるんですよ。梅雨の晴れ間に来たわけですよ。しかし、ここ(富士山を中心とした構図)を狙っているから、『あー今日はよくないな』と言いながら帰っちゃったんです。その時閃き、『空半分を全部受け止めよう』と思ったら、すごい世界があったということに気づかされて……」と、ロッキーさんがおっしゃるように、富士山のあたりは暗めなので、そこを中心に切り取った画面では、今一つぱっとしない印象です。

ところが、『空半分を受け止める』と決めて撮影されたこの作品は、雲が光を受けてすごく輝いている場所もあって、全体で実に良いバランスになっています。
閃き通り、『全てが一つで、一つが全て』

「ほんと前向きな人、人と違ったことを好きな人、特に女性が多いんですが、そういう人たちに結構、お輿入れしているんです。そして、この雲が大きな鳥になっている。翼を広げてこの富士山の頂上を目指して、龍神水神など、いろいろな龍がやってきたという人もいます。いつも思うんです、一点だけを見つめていると、やっぱりいかん、視点を広くしていろんなものを取り入れないと、世界は広がっているんだということに気づかされないです」と、おっしゃるロッキーさんは、さらに続けます。
「でもここは難しいところで、空振りの多い所でもあるんです。過去にも何回かここに足を運んで雲海が出なかったり、雲がかぶさっていたり、空の色が汚かったりとか、何度も空振りを重ねて、それを蓄積しながら天気を読んで、次一番良いタイミングがピタッとくるときはいつだ?ってことを、東京で読んでるんです」

東京という富士山からかなり離れた地で、天気を読んでいるところがさすがです。
気象予報士でも富士山の予報は難しく、大まかな予報しかできないとのこと。

ロッキーさん曰く、
「富士山は360度連なってるから、どこから視るかによっても違うし、どこに雲が沸くか?光がさすか?というのも、最終的に自分の足で探索して覚えてたほうがいいですよね」とのこと。

単なる机上の空論のデータだけでは、そこは補いきれないということで、足で見つけてきた、蓄積の生のデータを持っているロッキーさんならではの技といえます。

「今、ドローンが少しずつ普及しています。高いところから撮ろうとする人も結構いるんです。でも、一つはこの発想がないし、高いところから全体を撮っても構図が決まるわけでは無い。ほとんどトリミングしなきゃいけない。作品になんないですね。やはり自分の足で的確な場所に立つ。そして最高のシーンを受け止めるという姿勢がいいですね。この日も、この写真を受け止め終わったら、手をパンと叩いてお礼をして、東京に戻るわけです」と、潔いロッキーさん。

自分の足で歩いて蓄積されたデータと、直感力。
全てを受け止めるという大きな懐。
さらには、幸運ともいえるシャッターチャンス。
この全てがそろって完成した『天翔雲』というこの作品。
画面の端々にエネルギーが満ちています。

そして、この写真の撮影秘話を通して、写真だけではなく、人生のあらゆるシーンに通じるものの見方を教えていただいたように感じます。

詳しくは動画をご覧くださいませ。

■ ロッキー田中 ときめきの富士 公式ホームページ
● 皆が見たことのない、なんとも言えない素敵な富士山の写真が、ここにあります。

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現代の北斎 ロッキー田中の『ときめきの富士』一覧