最終回まであと3回。
最後の最後に「ぜひ収録してほしい」というご要望をいただいて、川崎にある合気道の道場、天真正伝 香取神道流の杉野道場にうかがいました。
昭和2年に設立され、数年前に95周年を迎えたという、とても歴史のある道場とのことで、現在師範をされている杉野至寛(ゆきひろ)先生にお話をうかがいました。
「私は二代目なんですが、父がいろんな武道をやっていまして、合気道の師範でもあり、『神道流』の師範でもあり、私が後を継ぐようになりました。」とおっしゃる杉野先生。
設立当時は柔道場だったそうですが、昭和10年に『神道流』を併設。
合気道は昭和29年に始めたとのこと(後に柔道を指導する者がいなくなったということで、『神道流』と合気道の二本立ての道場になったようです)。
何しろ、初代である杉野嘉男先生は、合気道の祖である植芝盛平先生直々に教わっていらっしゃるそうで、合気道の道場としては、本当に歴史が長い道場なのです。
そして、至寛先生が教えてくださいました。
「黒澤明監督の映画『七人の侍』を指導してました。その後は、『隠し砦の三悪人』『用心棒』。稲垣浩監督の『柳生武芸帳』『宮本武蔵』、NHKの大河ドラマ『龍馬伝』、その他いろいろ……。」とのことで、初代の杉野嘉男先生は、様々な映像作品に剣術指導をなさってきたのです。
そうそうたる作品名が並んでいることからも、合気道や剣術に関わる映像に大きく貢献され、映像の世界を支えてきたことがうかがえます。
正当な流れを汲んで現在に至る道場の証ともいえる一冊の立派な本と、その元となっている本を見せていただきました。
元の本は、表紙は無地で何も書かれておらず、タイトルは背表紙だけの簡素な本ですが、写真も交えて神道流の武術について詳しく書かれている貴重な内容です。
これをロシア語訳したものがとても立派な本で、こちらの本はなんとプーチンさんもお持ちだという話を聞きました。
至寛先生は、こうしたお父様から直々に手ほどきを受けたのかと思いきや、「小さいころは接骨医をやっていましたから、その門弟の方々が、遊び方々教えてくれました。父からはそんなに教わってないんですよ。一応やって、「これでどうか?」ということを父に見てもらって「いいだろう。」ということになって、今まで来てたんです。直接は、重要なところは教わりましたけど、そうじゃないところは、『見て覚える』という昔流の……。やはり「習わぬ経を読む」という感じで教わってきました。見て自分でやってみてやるのが、一番身に付くんですよ。『教わる』ということは、それが好きでそれに到達したくてやる分にはそういう方もおられると思うんですが、一般的には、聞くと、左から右へ流れていくものです。何度も観て繰り返してやるというのが武道の修行だと思います。」と、おっしゃいます。
さらに続けて、「昔の武道の道場っていうのは、下に履き出しがあって、上は高い所に窓があったんです。他所から見られないっていう、見せない、盗まれないように……。それをなんとか盗んで見るっていう。襖とか障子なんかありますから、そういうところに穴を開けたりして覚えるということもあったんです。」と、杉野先生はおっしゃいます。
『門前の小僧習わぬ経を読む』
自分から学ぼうと思って、見たり聞いたりすることで、しっかりと身に付くのかもしれません。
また、日本だけではなく海外からも神道流を学びに多くの方が道場にいらしているようです。
「何年か日本にいて武道の勉強をして、国に帰って道場を開いてます。そういうところが何カ国かあります。ヨーロッパと、あと国で言えばロシアとかバルト三国ですか。ノルウェーとかデンマークとか、あそこら辺が多いです。あとカナダ……。アメリカの方もいますけれども、アメリカはやはり勝負の国みたいな感じがします。勝ち負けがないとすっきりしない。イエスかノーか、勝つか負けるか。だから、『神道流』みたいな精神を鍛える武道というのが好まれないような気がします。」と、先生。
武道には、技を身に付けて強くなるという側面もありますが、芯の部分で、精神を鍛えるという目的も武術には存在します。
「昔は、『切った張った』があったでしょうけど、その時代が過ぎ去って、精神を鍛えるしかなくなってきたんです。」とのこと。
今どきの若者、特に子どもたちには、もっと日本的な精神の鍛え方を、どんな形でもいいから伝えていく必要を感じます。
武道を通じてそれができるのであれば、とても良いことです。
実際に、この道場にも子どもたちが習いに来ているようですが、『神道流』は武器を持ちますので、ほんの数人だけが学んでおり、現在は合気道の方が人数は多いようです。
しかし、今の子どもたちは、集中力に欠けるとのことで、ますます、武道の鍛錬で、そのあたりも身につけてほしいと感じます。
「合気道のほうは、転がるのが……受け身を取るのが大切です。転がって覚えるんです。技をかけられて、転がって、また技をかけて、転がって……その繰り返しです。」と、先生はおっしゃるのですが、これが今どきの子どもたちには難しいようです。
日本には、昔から培われてきている大切なものがあると思うので、『神道流』を学ぶことで、身につけてくれる子どもが増えることを、切に願います。
詳しくは動画をご覧くださいませ。