『クラシック音楽』というと、少し敷居が高く感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、この方の歌声を聴くと、感じ方が変わるかもしれません。
クラシックを中心に、幅広いジャンルの曲を歌われる本岩孝之さんは、4オクターブの音域で歌うことができる、とても稀な歌声の持ち主。
本岩さんに、音楽にまつわるお話をうかがいました。

音域は、カウンターテナーという、女性でいえばアルトの音域で歌うことができる本岩さんですが、声量も、ビックリしてしまうほど大きな歌声で、マイクを使わずに会場いっぱいに届きます。

「声量はどんどん上がっていくんですよ。日々、歌う筋肉が鍛えられていくんだと思います。だんだん遠くまで飛べるようになります。低い音は大体声帯の長さで決まりますが、高い音は、筋肉を鍛えることでかなり伸びるんです」と、おっしゃる本岩さん。

楽器の場合と違って『歌』の場合は、自分の身体そのものが、楽器の役割を担います。
本岩さんがおっしゃるように、筋肉が強くしなやかであることと、それを響かせる全身の状態で、『歌声』の質も変化するのでしょう。

数少ないと言われるカウンターテナー歌手という呼び方ができる本岩さんですが、もともとは少年少女合唱団出身とのことで、そのころから現在にいたるまでずっと、高音域が出せるのだそうです。

通常であれば、男性は変声期を迎えて高い声が出なくなるものだと思うのですが、本岩さん曰く「出せば出ると思います。あまり裏声で男が歌うと思わないですよね?発想が無いだけじゃないかな?出しにくい人もいるみたいですけど、基本的には声帯が薄めの人が高い音・裏声が出せます。僕の場合は変声しても、ソプラノもさらに高い音で歌っていたので……」とのこと。

やはり、ちょっと規格外です。
声量もあり、音域も広い本岩さんですが、単に音域が広いだけでは、聴いている人の心が打たれるということには繋がらないはず……。本岩さんの歌声を生で聴いて、涙を流す方もいらっしゃいます。
そこにはどんな思いがあるのかをうかがってみたのですが、答えはまたも規格外でした。

「どうでしょう? テノールの先生が『腹筋を鍛えろ』、と。『横になってトラックが上を通過しても大丈夫な筋肉にしろ』と……。音楽の教師をしながら歌をやってて、教師を辞めて重い物を持つ仕事やろうと思って、体を鍛えるために、トラックの運転手をやったんですよ。重いものをひたすら持てと言われたんで……。それでだいぶ鍛えられて強くなったんです。特にカウンターテナーが、それまではもう少し少年の様な細い声だったのが、僕のカウンターテナーは、太くて奥行きのある声に変わったんです」と、おっしゃる本岩さん。

繊細な歌声の裏側には、アスリートのような筋トレが!

「例えばピアノやヴァイオリンだったら楽器は作ってありますよね?歌は何もない……。ただの生身の身体なんで、楽器職人でもあるんです。それが成長し続けるんです。止まるんじゃなくて、鍛え続けると声は伸びるんです。正しく発声すれば……。間違えると、声を壊します」と、おっしゃり、続けて師匠である先生についてもお話くださいました。

「先生が75歳の時に、僕は30代で習ったんですが、『新しい出し方覚えたから、教えてやる』っておっしゃったり……。77、8歳の時に……。だから成長するんだと思います。ずっとすごい声でしたから。『この先生死なないんじゃないか?』とも思いました。亡くなりましたけど……。そのくらい、すごかったんですね」とのことで、素質と鍛え方で、生涯現役もあり得る世界のようです。

「喉の周りの筋肉がそういう性質なんだと思います。例えば、野球やサッカーやってる選手は30代で引退しますけれども、歌い続ける人で最高の声だったと思った人は、60代でニューヨークデビューしましたから……。ずっとイタリアで歌っていた人なんですが。年、関係ない気がしますね」とも、本岩さんはおっしゃいます。

ご自身を楽器に見立てて、よい声、歌声としての「筋力」というところに着目していくと、歳に関係なく育てていくことができるかもしれないようです。

「人間の声というのは、人間が好きなんです。犬が遠吠えをしていると犬が反応する様に、人間は人間の声で反応するんです。気持ちいい声っていうのは、人間みんな好きです。だから伝わると思うんです。大事に良い声を作っていけば……。役に立つように使えば……」ともおっしゃる本岩さんは、クラシックがメインですが、ご自身のコンサートでは、学校時代、音楽の教科書に載っていた唱歌やアニメソングも歌われますし、ジャンルも言語も多岐にわたっています。

「イタリア語だけでなく、ドイツ語、スペイン語、フランス語、日本語」と、言語のレパートリーも豊富な方なのです。

もともと音楽・歌の世界では、言葉が通じなくても国境を越えることができますから、様々な角度から本岩さんの歌声は、多くの方の心を動かす力があるのです。

今はコロナの影響もあり、歌う機会が少なくなっているようですが、コンスタントに本岩さんの歌声を聴くことができる場所があります。

「『河口湖音楽と森の美術館』という所で月に4、5回歌っているので、そこで聴いていただくことが出来ます。コンサートは、呼ばれればどこでも歌いに行くので、呼んでいただければどこでも歌います。身近に聴ける存在になれるようにがんばります」と、本岩さん。

『音楽と森の美術館』は、富士山を臨む河口湖畔にある美術館。
美しい庭園と調度品やオルゴールに囲まれ、ちょっとしたヨーロッパ旅行に出かけたような気分に浸れる素敵な場所で、本岩さんにぴったりの環境です。

実際に、日本の風潮として、歌手の方をお呼びして歌っていただくという文化がないですし、ジャンルとしてもクラシックは少々敷居が高いのが現状。
心の豊かさを育てるという面からも、生の音楽をもっと身近にしたいものです。

特に、同じお一人の方と思えない位、いろいろな側面を持つ本岩さん。
幅広いジャンル、色々な声で歌われ、どこにでも駆けつけてくださるような活動をされている方は稀有な存在です。
もっともっと活躍していただきたいと、心から思います。

詳しくは動画をご覧くださいませ。

本岩孝之さんの公式サイトはこちら
→クラシック歌手 「本岩孝之」オフィシャルウェブサイト

富士山を臨む河口湖畔にある、本岩さんが月に4、5回歌っている美術館
『河口湖音楽と森の美術館』