先週、北千住のご自宅で『ペルシャ絨毯』を扱っている、阿部真利子さんのお話をご紹介いたしました。
その真利子さんのお母さま、阿部和子さんのお話をうかがいました。

そもそも、『ペルシャ絨毯』を扱っていらしたのは、お母さまの和子さん。
それを今では、お嬢さまの真利子さんが引き継がれていらっしゃるのです。

そして、バトンタッチした今、和子さんは素敵なモノをたくさん取り扱っていらっしゃいます。
和食器、洋食器、アクセサリーなどなど、どれも、和子さんセレクトの逸品。
和子さんいわく、ミニミニのセレクトショップとのことですが、ご自宅に置かれていることが、普通のショップでは味わえないウキウキした気持ちを膨らませてくれます。

ベースとなっているご自宅自体も、和子さんがしつらえている居心地の良い空間なので、そこに、品物が置かれていると、相乗効果が生まれるのでしょう。
どの品も、イキイキと輝いて見えます。

やはり、センスがモノをいうということ。

「私自身、大学が美大でグラフィックデザインの仕事をしていました。デザインのルーツを辿ったりしている中で、物への思いっていうのが募りまして、結局ものを商いにしていくという流れになりました。」と、おっしゃる和子さん。

もちろん、センスがなくては始まらないのですが、一つ一つ選ばれてここに存在するものたちに愛情や思いが込められていると感じます。

「それぞれ皆さんの生活のやり方、過ごされ方があると思うんですが、その中で、ほんの少し美味しい物をちょっといただきたい、素敵なもので身を飾りたい、素敵な住まいで過ごしてみたい、ほんの少しそういう気持ちを持たれる中で、そこに私が手助けできるものたちを集めております。価格的にも高いものもあれば、リーズナブルなものもあるんですが、私の目で娘と一緒にセレクトしています。」と、和子さん。

おっしゃる通り、何か一つでも心が浮き立つものが生活の中にあるだけで、気持ちに変化が生まれ、僅かかもしれませんが、色々なことにプラスの影響をもたらすと思います。

和子さんは、さらに続けておっしゃいます。
「なぜかっていうと、自分が好きなものとか、少し背伸びして手にしたもの、そういうものを扱う時、同じ食器でも洗い方ひとつでも丁寧に扱うのです。割れ物ですから、丁寧に扱った結果割れてしまうのは、それは仕方がないと思うんです。でも生活そのものがファスト的なものばかりになってしまうと、扱いも手荒になってしまう、生活そのものが丁寧さを失ってしまうな気がするんです。だから少しでも自分の中で背伸びをしたものを、一期一会で出会って手になさるところから、生活のなりわいっていうか、そういうのが変わっていくきっかけになっていただけたらうれしいなと思います。」

本当にその通りだと感じます。
食べ物ひとつ、食器ひとつ、着るものひとつ、何かひとつに愛着をちゃんと持てたら、そこを出発点にいろいろ変わっていきます。
阿部さんのご自宅に集まった選ばれた品々は、一期一会で出会ったお客様の手元に旅立って行き、その新しい場所で、持ち主の方の生活がワンランク上がるよう、役割を担うはずです。

「最近、『ハレとケ』がないんですよね。一緒になっています。昔は、晴れの日は晴れ着を着て、晴れの日のお食事をなさってたと思うんです。」と、和子さん。
(ハレは儀礼や祭、年中行事などの非日常、ケは普段の生活である日常を表します)

確かに『晴れ着』という言葉は残ってますが、『晴れ着』の『晴れ』という意味を知らない方が増えているかもしれません。

「『ハレとケ』ってあるので、いつでも元気印である必要はないし、ポジティブな状況だけでは無いんですが、どこかで晴れという時間の過ごし方はあっていいのかなって。お茶ひとつお出しするにしても、今日はちょっと晴れな感じでお出ししたい、そういう暮らしぶりっていうのは、ちょっと日本人の中で失われている気がします。」と、和子さんは憂いていらっしゃいます。

本来、日本人が持っている文化、流れからすると、日本人の心の中にあるものはとても奥行きのあるもの。
残念ながら、今ではその奥行きがなくなって薄っぺらなものに変わってしまっています。
ところが、阿部さんのご自宅では、お花ひとつの飾り方、ランプの選び方などを、今日という日のためにしつらえて、お客様をもてなし、生活を楽しんでいることがうかがえます。

「手にしてくださった方が、早速家で「こういうものを盛ってみました」、「こういうものを」ってお写真を送ってくださるんです。そうするとほんとにうれしいです。私がいつも、例えば白和えひとつにしても、おひたしひとつにしても、自分がいいなと思った器に盛っていただく、この幸せ感っていうのでしょうか。常に私が言うのは、「器の力を借りてください。」です。同じものでも器の力を借りると全然違うものになります。」と、和子さんはおっしゃいます。

自分が能動的に、「今日はこの料理をこの器で盛り付けよう」と思うところからお食事は始まります。
ファーストフードで買ってきた食べ物でも、確かにお腹いっぱいになりますが、『器を選ぶ』ことに心が向いているような食事には、細胞に行き渡る何か目に見えないエネルギーが宿るように思います。

「目に見えないんですけれども、『気』がやっぱり存在してると思うんです。そういう風な『気』を、気持ちを入れる中からきっと私は生まれてくると思いますので、基盤になるような、毎日舐めるように掃除はしませんけれども、良い気が流れるような暮らしぶり、それをやっぱりなさるというのがいいと思います。」と、和子さんも同じことを感じています。

おそらく、「ここは外せないな」というポイントを置くとか、「これはもうほんとに特別な日に使う特別なもの」というような、自分の中での色々なメリハリをつけていき、大切にしていくことで、人生の中の「ハレとケ」みたいなものが作られていくのではないでしょうか?
あくまでも自分流でもいいと思います。

「今、いろんな大変な世の中になっていますが、みなさんポジティブな気持ちでと……いっても、長い人生の中でバイオリズムがあります。自分の中で良い時の過ごし方があってもいいと思います。今までのやり方の中では、一度も宣伝をしておりませんので、気にいってくださった方がバトンを次の方に渡してくださって、30 何年間続けておりますけれども、一緒に年を取っていきました。もう少し若い方たちにほんの少しでも共鳴してくださる方がいらっしゃったらうれしいです。」と、和子さんは新しい流れに前向きです。

自分の成長や年齢とともに、周りも歳を重ねていき、時代は変わっていきます。
そんな中で、すたれてしまうのがもったいないものが山ほどあります。
だからこそ、阿部さんのなさっていることにふれることで、その方の人生に良い変化がもたらされ、古くとも良いものが残っていくことは、とても意義があると感じます。

詳しくは、動画をご確認くださいませ。