尺八と聞くと、日本の古典的な楽器として、奏でる音も日本的な音色を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか?
実際に、演奏を目の前で見ることも聴くことも少ない楽器といえるでしょう。

ところが、彼の奏でる音は、目を閉じていたら、きっと何の楽器かさえわからないほどに、軽やかで澄んだメロディーで、さらに、演奏者の姿を見たらびっくりします。

なぜなら、彼が日本人ではないことは、一目瞭然。
長身で、青い瞳をしたその人は、ロサンゼルス出身の尺八奏者、ブルース・ヒューバナー :Bruce Huebnerさん。

特に、今回インタビューさせていただいた場所が、成城学園駅から15分ほど歩いた住宅街の中にある『サローネ フォンタナ』という音楽ホールで、ブルースさんと尺八の音色はとても似合っています。
教会のように吹き抜けで高い天井、趣のある内装に、窓から差し込む柔らかな陽光が、ほかでは味わえない独自の空間を創り出しているので、彼の演奏に花を添えるのです。

ブルースさんが演奏してくださる曲目は、おおよそ尺八らしからぬ多彩なラインナップで、ジブリの曲まで飛び出します。

尺八というと虚無僧の音色を想像してしまう、日本人の感覚からはずいぶんとかけ離れていて、音だけを聴いたのであれば、フルートの響きにさえ感じます。

「クラリネットに聴こえると言う方もいます。サクソフォンとか言われることもあります。なぜでしょうね。」とほほ笑むブルースさん。

通常尺八で使われる音階は、いわゆる『ドレミ』ではなく、限られた音だけで表現されているので、その音が日本風。ブルースさん曰く、『醤油味』

あまり知られていないことだと思うのですが、尺八に開いている穴は、たったの5個。
そしてその穴を塞ぐ指の状態で、あらゆる音階を出せるのだそうです。

「オールマイティーです。ジャズの曲とか……、ここ(サローネ フォンタナ)、気持ちいいんですよ。ここの響きを活かさないといけないと思って、ジャズの曲も、ピアノの世界からできている西洋の音楽、平均律っていうか、わかりますかね?12キー、ピアノの世界の音楽も、尺八でやりますので幅広いんです。」とおっしゃるブルースさん。

とはいえ、10歳のころからフルートやサキソフォンを学んできたアメリカ人である彼が、尺八という世界に飛び込んだという理由は、とても不思議です。

「出会ったのは大学生の時、音楽を専攻して、ロサンゼルスで生の音を聴いて、凄く尺八の音に魅かれました。ラジオでも聴いたりしてたんですが、紋付き袴で生演奏している日本人の姿を見て、日本人の一流の演奏者の音を聴いて、これはとてもかっこいいと思いました。」とのこと。

日本人から見ると、紋付き袴の尺八奏者の姿を、将来の自分の職業としてあこがれの対象と感じることはあまりないように思うのですが、ブルースさんの目には、特別な存在として映ったのでしょう。

実際に、彼が来日して尺八の先生を探す際に、日本人は『尺八???』という反応で、カルチャーショックを受けたとのこと。

ほとんどの日本人は、『尺八』に、とりたてて興味をもっておらず、曲名も演奏者の名前も知らないのです。

ブルースさんは、
「40年尺八をやってすごくがっかりするのは、尺八は、「お正月」「外人、年寄りが好き」そういう先入観が強くて、もったいないです。この楽器はギターに似てるのか、古い文化があるんですよ。伝統音楽、宗教音楽がルーツにあるんですけど、いろんなものができるんで……よく、「ブルースさんは尺八を作れますか?」ってよく聞かれますけど、ヴァイオリンの人に「作れますか?」って聞いてないよね?全然知らないんだもんね。職人が作って、サクソフォンと同じ位の値段がするんですよ。ギターには色々ありますね、ジャズギター、クラシックギター。尺八も、民謡もあればクラシックもあるしポップスもある。幅広いんです。」と、嘆かれます。

残念なことに、日本の教育の現場では、日本の良さを継承していくためのスタンスが希薄で、子どもたちには日本文化の素晴らしさが伝わっていきにくい傾向が進んでいると言わざるを得ません。
今の教育が始まって以降、すでに三世代目に突入し始めていますので、本当に嘆かわしいことです。

そんな中、ブルースさんのような方の登場によって、新しい尺八の姿を見ることは新鮮で、逆輸入のように日本人にとって受け取りやすいことなのではないでしょうか?

ブルースさんは続けます。
「この楽器がなぜ良いかというと、今日みたいに持ってきて、外でもどこでも、森の中でも吹ける感じですね。緩和するんですよ。アメリカではよく山でキャンプをするんです。そこで吹くとみんな喜ぶんです。キャンプ場でサックス吹いたらどうだろうね?尺八は自然に溶け込むです。」

尺八の素材は『竹』
中は『漆』
自然な素材で作られた楽器だから、より自然に溶け込むのかもしれません。

「尺八のもう一つ面白いのは、琴もそうだけど、三味線もそうだけど、直接指で音に触るんです。指先で音を作るから……、繊細なんです。吹いてる人の気持ちがすごく伝わるんです。大きく言うと 繊細ですごい自由に……。和楽器のイメージは家元制度とか、型がある、とか。確かにそういう伝統もあるんですが、それも、僕も何十年もやって最初は伝統も大事にしたいと憧れるし面白いし、楽譜もあるし。それぞれの流派の特徴、先生たちも素晴らしいし。だけど、それやりながらどんどん逆に自由に演奏できるようになるんです。」
と、ブルースさんがおっしゃるように、ほかの和楽器のような『家元制』がない分、自由度が高いといえるのでしょう。

「最初は三味線と琴、あとはジャズのグループと、いろんな人と一緒にやっているんだけど、コロナをきっかけに一人ぼっちになっちゃって……。逆に尺八は本来は虚無僧が一人で吹くのが基本で。来週出かけるんですが、東北、四国のツアー、頑張って一人でチャレンジです。」と、ブルースさん。

本当に、日本全国、尺八をもって旅をされるとのこと。
CDも出されていますが、ぜひ生の音を味わっていただきたいです。
ホームページで、ブルースさんのスケジュールがチェックできます。

詳しくは動画をご覧くださいませ。

★ブルースヒューバナー(BRUCE HUEBNER) さんのLIVE情報などは、こちらから

https://www.shakuhachibruce.net/