森下典子『好日日記－季節のように生きる』

　■　『好日日記－季節のように生きる』作家　森下典子さん

●　2019年2月10日放送

普段の生活の中で『茶道』という文化は、少し遠いところにありますが、この『お茶』の世界は、心を豊かに磨いていく道のりとして、とても優れた方法であることを、作家の森下典子さんからうかがいました。

樹木希林さんの遺作となった映画『日日是好日（にちにちこれこうじつ）』の原作者でありエッセイストの森下さんですが、舞台となっているのは、森下さんが２０代から習い始めたという『茶道』の世界。
しかし、この『お茶』という世界は、関わったことのない方々からすると、不思議に感じる作法がたくさんあります。
抹茶をいただくのに、袱紗（ふくさ）や茶筅（ちゃせん）を使いながら、なにやら複雑なルールがあるのはどうしてなのかと、きっと思うはず。

しかし、実は、お茶を美味しくたてるのに一番合理的にブラッシュアップされた究極のスタイルが『茶道』なのです。
一見複雑なお作法も、お客様がどの場所から見ても美しく見える動作なので、実際に身につくと、その素晴らしさが身にしみてわかるのです。
時間をかけ、何度もお稽古を重ねることで、その美しい所作が身に着き、日常生活の立ち居振る舞いまでも美しくなっていくのです。

そして、森下さんご自身も、お茶から学んだことで、助けてもらったことは沢山あるそうです。

実は、森下さんは会社員のご経験は一度もなく、就職難の時代が大学卒業と重なったため、週刊誌のライターをアルバイトととしてはじめられたとのこと。
そのままずっとライターのアルバイトを続けていた中で、エッセイを書き始めたのだそうです。

会社組織という後ろ盾のない不安定なフリー生活。
フリーランスという立場の方ならどなたでも、老後についての漠然とした不安や、継続的な仕事の依頼を失う危機感は、少なからず常に持っているものです。

森下さんは、４０年のフリーランスのベテランですが、そうした不安を感じる生活の中で、週に１回、『お茶』のお稽古に行くということは、揺れる心を鎮め、軸足を置かせてもらえることでもあったのです。

お茶室では、作法とその美しさに向き合うため、一挙手一投足に神経を使います。
『右手はこう』『左手はこう』『ここで一礼』と、きちんとこなしていくためには、余計なことなど考えるゆとりがなくなる時間なのです。
そのため、お稽古の間は常日頃持ってしまう漠然とした不安から解放されて、むしろ気持ちよくなって来る瞬間さえあるのだそうです。

『お茶』という目の前の現実に対峙することで、自分の内側と会話できるという感覚まで生まれ、その瞬間、自分が日常の雑事に揺れ動いていることさえ、「これで良い」と思えてくるとおっしゃる森下さん。
こんな風に思える時間を持つことは、普段の生活にも集中する力を与えるに違いありません。

映画化されている『日日是好日』は、森下さんが４５歳くらいの時のお話しですが、続編の『好日日記－季節のように生きる』は、５０代のころの、ある一年間の森下さんのお話しです。
「二十四節気」と「茶室」を味わいながら自分と向き合う心の旅を書いた作品です。

　　　　　　●　『好日日記－季節のように生きる』

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お茶室では、掛け軸や、切り花、花器、お菓子の中に、季節感を映し出すように表現されますが、毎週同じ茶室の同じ席に座るということによっても、季節による風の音・雨の音の変化を感じることへと繋がっていくのです。

木造の家に差し込む日差しは、冬至の時は部屋の奥まで届くのに、夏至の時には縁側までしか差し込まないのです。
茶室という小さな空間にいながら、日差しの角度が変わっていくことで、地球が回転していることを、体感することができるのです。
冬の蹲（つくばい）の水の手の切れるような冷たさ、夏の草が風を受け潮騒のような「ざざ～」っという音を立てること。
これらが、時間とともに温度も音も変わっていくことに気づかされるのです。
『お茶』とは、こうした変化を全身で感じられる空間、時間でもあるのです。

『好日日記－季節のように生きる』に触れることで、新たな気づきにきっと出会えるはずです。

詳しくは動画をご覧くださいませ。