● 2019年2月10日放送
あの樹木希林さんの遺作となった映画『日日是好日(にちにちこれこうじつ)』
その原作者である作家の森下典子さんに、作品や『お茶』の世界にまつわるお話をお聞きいたしました。
映画は、今が旬の女優・黒木華さんを主人公とした茶道のお話しですが、森下さんご自身が体験してきた『お茶』の世界観を綴ったエッセイが『日日是好日』という本なのです。
● 『日日是好日』
さて、このタイトル『日日是好日』、読み方は色々あるようなのですが、禅語では、『にちにちこれこうにち』と読み、文字を追えば「毎日毎日が素晴らしい」という意味になります。
そして、常に今この時の大切さや、あるがままを良しとして受け入れる姿勢をも指す、とても奥深い言葉なのです。
『茶道』というと、これまでにご縁がなかった方にとっては、簡単には理解しづらいことが多いかもしれませんが、とても奥行きがあり、大きな広がりを持つ、日本らしさが凝縮されたすばらしい世界なのです。
森下さんご自身は、なんと42年もの年月を『お茶』とともに歩んでこられたとのこと。
最初は、お母様に言われいやいや通っていたものの、徐々に様々なことに気がついていき、ご自身にとってもなくてはならない大切な時間へと変化していったそうです。
全ての所作にしきたりがあり、初心者にとってはとても堅苦しい世界に感じがち。
ところが、その一つ一つは実にムダがなく美しく、そして、意味を持ちます。
このことに気づくためには、多くの月日が必要なのです。
若いころの森下さんは、日常ではありえない色々なしきたりに、つい「どうして?」と先生に聞いたことがあるそうですが、先生は「お茶ってそういうものなんです」とのお答え。
それでも、行きは『ずる休みしたい』と思いながら通う森下さんの心は、帰りにはすっきりしていることに、いつしか気づかれたとのこと。
空が高く遠くまで見え、リセットされるような、なんともいえない気持ち良さなのだそうです。
障子が開いた時に見える先生のお庭の美しさ。
木々の葉が、陽の光を受けキラキラと光る様、その上に広がる空の雲の白さ、吹き抜ける風たち、こうしたものに心が向くようになっていきます。
また、季節を映し出している床の間の設え。
茶室そのものには季節はありませんが、『床の間』という空間によって季節やその日の茶席に相応しい『場』が作られるのです。
『床の間』には、掛け軸が掛けられお花が生けられていますが、この掛け軸と、花や花器によって季節感が吹き込まれます。
そして、これら全てには、招く側が、その日のお客様のために想いを込めているのです。
しかしながら、招かれた側が、これらの意味を汲み取るためには、ある程度の成熟が必要なのです。
ちなみに、「お茶の一番のご馳走は、掛け軸」と言われるほどに、掛け軸一つをとっても、味わいは深く、森下さんも「まるで掛け軸が、向こう側の世界に通じるドアのようで、このドアを通れば宇宙にだって行けそう」とまでおっしゃるほどなのです。
そして、作家である森下さんでさえ、ご自身が感じている素晴らしさを説明することが難しいほどに、言葉に置き換えられない感性の集合体とも言える『お茶』という世界。
先人たちの想いが何世代にも渡って積み重ねられた結果なのでしょう。
ご自身が、こうした体験を積み重ね、『お茶』の世界のことを人に伝えたいと思うようになった森下さん。
その想いが、編集者の方に伝わって2002年に産声をあげた書籍がこの本なのです。
初版から20年近く経過した現在も増刷され続けています。
また、映画化へと道が開かれたきっかけは、監督さんとこの本との偶然の出会いからでした。
ある日、小学生のお嬢さんと図書館に行った時のこと。
その白い表紙に目が留まり、「なんの本?」と、手に取ると瞬く間に半分くらい読み、「映画化したい」と思ったそうです。
日本独自の文化である『お茶』の世界が書籍となり、映画になって一層多くの方に伝わるということは、偶然というより、必然だったのでしょう。
ところで、この作品を映画化する際、お茶の先生役に選ばれた樹木希林さん。
役になりきってしまう稀有な女優さんでしたが、実はお茶の経験が全くなかったそうです。
それでも、お茶の先生のイメージには、樹木希林さん以外は考え慣れないほどハマり役だったと森下さんはおっしゃいます。
面白いエピソードも披露していただきましたので、ぜひ動画でご覧くださいませ。